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おいしい声(もの)たべたい。

ここは主食が『声』のさすらい人「御影」が、日々の雑記やらその日食べたごはん。その他を自由気ままに語るブログです。日々、腹痛に注意。
HOME » TRPG小説 » scene8:怒りと涙-静止した時間の中で-
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 扉を開けると、そこはまるで舞踏会の会場のような、大きな広間だった。部屋のあちこちにはまるでパーティに呼ばれた客人のように無数のマネキンが飾られている。
「…うわ…これは目に悪そうだな…」
 色とりどり、極彩色の衣装を纏うマネキンたちに、思わず率直な感想を漏らしてしまう。そして、そんな緊張感のない言葉とは裏腹に、私はこの部屋に満ちる魔力と瘴気に神経を研ぎ澄ます。
「…ハルカ…この魔力って…」
 緊張したようすのムツミに目線だけで返し、私は魔力と瘴気の発生源であろうマネキンたちの中心点を見据える。そこには、いつの間にか一人の女性が立っていた。「いつの間に?」という私の内心の焦りを見透かしたかのように、その女が艶然と笑った。
「……ようこそ、我が居城『無限城アルカンシエル』へ…私が主のメル=アドラーですわ」
 慇懃無礼な態度で頭を下げる魔王…無限の虹彩メル=アドラーを前に、私は戦慄していた。それは、隣にいるムツミも同じらしく、呆然とした様子でメルを見つめていた。
(な、なんという服装のセンス…あと、ネーミングセンスが…)
 目の前の魔王の姿を、もう一度見る。色の数を数え上げたらどれだけの量になってしまうのか、それを考えることすら放棄したくなるような、それ自体がもはや精神兵器なのではないかと疑ってしまうような…何というか壮絶な色使いかつ、あれならアゼルの露出包帯スタイルのほうが許容できるんじゃないかというレベルの男子禁制な露出度の衣装を身に纏っている。それでも、メル=アドラーは自身満々に私たちの前に現れたのだ。ある意味、尊敬に値するのではないかとも考えてしまう。
「メル=アドラー!! あたしは、あんたを倒すために来たんだ!」
 メルの精神攻撃に対抗していた私の横で、ムツミが突然グレートソードを抜き放つ。あれ? ムツミもあいつの服装に驚愕してたんじゃないの?
「あら…誰かと思えば、あの時無駄なことをしていた魔王の面汚しじゃないの…」
 まるで、今気づいたかのようにわざとらしくムツミを罵るメル。
「ムツミ…下手な挑発に
「あたしは…あたしは…うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 ムツミを諌めようとした私の言葉も空しく、ムツミがメルに向けて走り出す。大振りで繰り出した斬撃は部屋の中央にいるメルを正確に狙っていく。だが、その間メルは一切動こうとしなかった。私は、ひとつの疑念を確信へと変えて、ローブの下で術式を幾重にも編みこんでいく。

         >>view:ムツミ


 あの瞳が、言葉が、あたしの心の弱いところを抉る。自分でも、冷静さが失われていくのがわかった。止めようとしても止められない衝動が、あたしを支配する。
「―――」
 隣で、ハルカが何かを言った気がした。でも、あたしは…。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 グレートソードを月衣から抜き、最大速でメルとの間合いを詰める。そのまま、勢いを殺さないようにただ立ったままのメルに向けて振り下ろす。
「…え…」
 ガシャン…とまるで硝子を壊したような感触に、急に冷静さが戻ってくる。これは、虚像…?
「ふふ…直情的で思慮の浅い貴方は、いつか味方を不幸にする。そして、みんな後悔するのよ。貴方と関わったことに…」
 あたしの耳に、囁くようにメルが言葉をつむぐ。その言葉に、心が抉られる。それは、否定できない事実…。
「ムツミ…!! ―――!!」
 ハルカが、あたしを呼んでいる。でも、あたしはその顔を見ることが出来ない。もし、彼女の顔が失望に、後悔に染まっていたとしたら。その次に、放たれる言葉が、終わりを告げるようなものだったら…。
「…嫌だッ! 嫌ッッ!! 嫌われたくない! 傷つきたくないよぉ!!」
 耳を塞いで、うずくまる。真実を知りたくない。傷つくのはすごく…怖い。どこかで冷静な自分が、周囲で動き出したマネキンの殺意を感じていたが、それすらどうでもよかった。もし、傷ついたまま生きるのなら、このまま真実を知らずに死んでしまうのもいいかもしれない…そうとまで思っていた。

         >>view:ハルカ
「ムツミ…!!」 
 攻撃によって砕けた虚像を前に、立ちすくむムツミに声をかける。虚像の崩壊と共に、沈黙を保っていたマネキンたちが一斉に動き出したからだ。数は目測で4グループ、100体以上。
「早く、こっちへ!!」
 私が声をかけようとすると、ムツミが突然うずくまる。まるで外界からの全てを拒絶するかのように耳を塞いでいる姿に、何かあったということを悟る。
「…嫌だッ! 嫌ッッ!! 嫌われたくない! 傷つきたくないよぉ!!」
 ムツミが、涙交じりの声を上げる。その言葉の意味に、一瞬思考を巡らせるが…すぐに、ひとつの答えにたどり着く。

『あたし…本当は弱いから。誰かを助けるのだって、誰かにいらないって言われたくないからだと思うから…』
『傷つきたくない。嫌われたくない…って』

 ムツミと初めて会った時に聞いた言葉。私は笑って「…じゃあ、私がいる間は大丈夫だな」と冗談めかして言った。それは真実。私はムツミがどうであろうと、友達でいようと思った。
「……」
 答えにたどり着いて、そして…私は、心のどこかがキレる音を聞いたような気がした。ステルストラップの群れにぶち当たった時でも、理不尽な任務をアンゼロットから受けた時でも、ベルに楽しみにしていたメロンパンを食べられた時でも…ここまでの感情を感じたことはない。私は、今…すごく腹がたっている。
「…リフレクト…」
 6重に展開していた術式のひとつを開放する。足元で小規模の魔力爆発が起こり、そのエネルギーを推進力にムツミへと駆け寄る。さらに、右手に展開した…本来ならマネキンの群れに放つはずだった術式「タンブリング・ダウン」を目の前の大馬鹿魔王に向けて放つ。
「こんんの…大馬鹿魔王が!! 私を馬鹿にすんなぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 うずくまるムツミを渾身の一撃で部屋の隅へと吹き飛ばす。だが、こんなもんじゃ私の怒りは収まらない。私は大きく息を吸い、ムツミを怒鳴りつけるように声を上げる。
「いい!? ムツミ! あんたはそこで見てなさい! 反論は認めない! 一瞬たりとも目をそらすことなんて許さない! …私は怒ってるんだ。勝手に落ち込んで勝手に突っ走って、勝手に天涯孤独を気取っているあんたに!」
 睨み付けると、ムツミの体がビクリと震える。私は、その姿を見つめながら、さらに言葉を繋げる。
「…だから…あんたの考えたことが、全部間違っているってことを教えてあげるわ!!」
 緩慢な動きで近づいて来ていたマネキンたちを見据える。私は、構築の終了した残り4つの魔法術式を一気に開放する。
「…あんたたちに、次の時間は訪れない! 全ての時間は私の元に…!!」
 マネキンたちがその動きを止める。私はそれを確認すると、そのマネキンの群れに飛び込んでいく。
「大地の槍よ…竜の顎となりて全てを飲み込め!!」
 跳躍から魔力を込めた左手を大地へと叩きつける。伝播した魔力が周囲を隆起させ、マネキンたちを飲み込んでいく。
「…くっ…さすがにここまでの魔力を連続で消費すると辛いな…」
 私は最小限の魔力を制御にまわして、通常の魔力格闘戦に持ち込む。本来なら多人数を相手にするには向いていないのだけれど、時間が静止している間ならば話は別だ。
「1…2…3…4…」
 瞬間的に手足に魔力を付与してマネキンたちを粉砕する。数は多いが、問題はなさそうだ。
「見てなさいよ…ムツミ…」

         >>view:ムツミ

「こんんの…大馬鹿魔王が!! 私を馬鹿にすんなぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 死を覚悟したあたしは、頬に受けた強い衝撃で壁に叩きつけられた。
「がっ…がはっ…」
 体中を駆け巡る痛みに、顔を上げると、あたしが今までいたところに、ハルカが立っていた。今の一撃は彼女のものだったようだ。
(やっぱり…あたしのこと…)
「いい!? ムツミ! あんたはそこで見てなさい! 反論は認めない! 一瞬たりとも目をそらすことなんて許さない! …私は怒ってるんだ。勝手に落ち込んで勝手に突っ走って、勝手に天涯孤独を気取っているあんたに!」
 怒りを顕わにしているハルカの様子に、あたしはすべてを悟る。もう、ここにもあたしの居場所はない。その事実に、思わず体が震える。
「…だから…あんたの考えたことが、全部間違っているってことを教えてあげるわ!!」
(…えっ…)
 ハルカの言葉が、あたしの中にすとんと入り込んでくる。それは拒絶じゃない、否定の言葉。
(…どうして…? あたしを…)
 ハルカが全身から魔力を放出し、それに呼応するように世界が動きを止める。ハルカが得意とする時間制御の魔法陣がマネキンたちを包み込む。そのままマネキンの群れに突入していくハルカを見ながらあたしは彼女の言った言葉の意味を考えていた。
(『勝手に落ち込んで勝手に突っ走って、勝手に天涯孤独を気取っている』あたし…)
 改めて言葉にすると、心がズキリと痛んだ。誰も…ハルカはそんなこと一言も言ってないのに、あたしはハルカがあたしを拒絶すると思い込んでいた。相手に確認もしないで勝手に独りぼっちになったと思っていた。
(あたしは……馬鹿だ…大馬鹿だ…)
 涙が溢れた。あの時と同じ。すごく暖かい涙。もう惑わされない。あたしは…。
「…もう…迷わない」
 足元に置いてあったグレートソードを掴んで、立ち上がる。体を走る痛みなんて気にならなかった。あたしは涙を拭い、走り出す。
「てりゃあああああああ!!!!!」

         >>view:ハルカ

「てりゃあああああああ!!!!!」
 遠くからムツミの声。そして、駆け寄ってくる足音を聞きながら、私はふっ…と笑った。
「ムツミ。あんたは待ってろっていったでしょ!!」
 口元に自然と笑みが浮かぶ。私は、マネキンを両断しグレートソードを構えなおしたムツミの顔を見る。その顔にもう、迷いはなかった。
「…ごめん…ハルカ…あたし…」
「約束…破ったんだから、せいぜい私のために戦いなさい…」
 また暗い顔をするムツミの言葉を遮り、私は彼女と背中合わせにまだ数の残るマネキンたちを見渡す。
「…それで、全部なかったことにしてあげるわ」
 背中越しに、はっ…と息を呑む声が聞こえる。そして、やや間があって「…うん」と一言。まったく…世話が焼ける…。
「…純然たる魔力よ…殲滅せよ!!」
「うりゃあああああああああ!!!」
 私とムツミの攻撃で、マネキンの数が減っていく。
「最後の一撃ッッッ!!」
 袈裟切りに両断されたマネキンを最後に、広間でのダンスパーティはお開きとなった。

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