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おいしい声(もの)たべたい。

ここは主食が『声』のさすらい人「御影」が、日々の雑記やらその日食べたごはん。その他を自由気ままに語るブログです。日々、腹痛に注意。
HOME » TRPG小説 » CLIMAX/scene12:無限の虹彩-あたしに出来ること-
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『ねぇ…聞いて』
 扉を開ける前に、ハルカがあたしに向かって言った。
『…この戦い、絶対に決めるのはあんた…ムツミよ』
『…え? で、でも…あたしなんて…』
 あたしは、せいぜいハルカが戦えるように守ることしか出来ないと思っていた。そんなあたしに、ハルカはそう言ったのだ。
『あんたは戦えるだけの力を持っている。少なくとも…私よりは』
 どこか自嘲気味に笑って、ハルカはあたしの肩を掴んだ。
『…勇者なら、困ってる人のために魔王を倒して…ハッピーエンドを掴んでみせなよ!!』
『…ハッピーエンド…』
 あたしは、誰も傷つけたくないと思っていた。傷つけられたくないからそう思っていた。でも…さっき、戦うことで守れることがあることも知った。
『…そ・れ・に…』
 ハルカが突然意地悪そうな笑みを浮かべて、肩に置いていた手をあたしの頬に伸ばし…勢いよくひっぱった。
『いひゃひゃひゃ…いひゃい! いひゃいお、はゆか~!!』
 ものすごく痛い。あたしはハルカの手を払って熱を持った頬をさする。
『な、何するのさ!!』
『…私のために戦うって約束…まだ終わってないんだからね。ちゃんと誠心誠意私の言うこと守って戦いなさい?』
 非難がましい目で見るあたしに、ハルカは意地悪そうな笑みを止めずに言った。
『…あ…うん…!!』
 ハルカはこうやって、あたしの背中を押してくれる。ちょっと前に読んだ本によると『つんでれ』とか言って人気者みたい。何かわかるな。
『…で、作戦なんだけど…』
『うん…』


(…私に何があっても絶対に守ろうとしない…か)
 あたしは目の前でメルに向けて猛攻を仕掛けるハルカを見ながら、意識を集中していく。周囲にいたマネキンたちはすでにメルの放ったラグナロックライトや、ハルカの拳によって壊滅していた。
(…これも計算通り…なのかな)
 メルが放つ魔法も、軌道も、すべてがハルカの思惑通りなのではないか…そんなちょっと怖い想像をかき消して、剣先にプラーナを集中していく。ハルカは最大の一撃を一発だけ打ち込む作戦を提案した。あまり手の内を明かすことなく奇襲で決めるつもりらしい。何でも『あの手のプライドの高いヤツは自分より格下と思っているヤツに対して油断をするものなの。だから、ザコだと思われているうちに決めたほうがいいのよ』ということらしい。だから、あたしは全気力、全身全霊で一撃を放つ準備をしている。
(…あらゆる手段を使って、囮になる…か…)
 メルの攻撃にさらされるハルカの姿に、思わず足が動き出しそうになる。だけど、あたしを信じてくれたハルカのためにも、あたしはあたしに出来ることをしなきゃ…。
「……もし、あたしに切り開く力があるなら…あたしを救い出してくれたハルカのために…一度だけでも…」
 目を閉じて、体に走る力を一点に集約していく。やがて、真紅の光がグレートソードの切っ先に集まっていくイメージが形になっていく。
「……もっと……もっと…」
 祈るようにつぶやくあたしの耳に、ふいに声が聞こえてくる。

『まさか…後ろにいる魔王もどきを守るために私の攻撃を引き付けていたとはね…どんな意図があるかはわからないけど…私としたことがさっきからアクションがないことに気づかないだなんて…』
 気づかれた? 目を開けると、こちらを見ていたメルと目が合う。恐怖で折れそうになる心を繋ぎとめて、集中を続ける。そんな中、メルの周囲の羽が紫に輝きだす。それに対抗するようにハルカが魔法をすごい速度で組み立てていく。これは、ハルカが危ない…!!
「ハル…!!」
 動こうとしたあたしを鋭い視線が制した。ハルカがあたしを見つめている。ここで動いたらいけない。ハルカはあたしを信じている。あたしはハルカを信じればいい。
(目は…逸らさない)

         >>view:ハルカ

「…バカのひとつ覚えで…私を抜けられるとでも思ってるの?」
「…ふふ…さて…どうかしらね?」
 自信満々な魔王に動揺を悟られまいと、強気な笑みを浮かべながら術式を構築する。おそらく標的はムツミ。だけど、同じ術式を使う以上私の魔術で打ち消せる。
「喰らいなさい! ディスチャージ!!!」
 無数の羽がムツミに向けて殺到する。それを拳と相殺の魔術で無効化していく。やがて、羽を捌ききった私は額に浮いた汗を拭いながら、魔王に目を向ける。 …自信があるように見えて、無策だったのか?
「素晴らしいわ…落とし子…いや、ハルカ=リノリウム…。だけど…」
 またしても羽が紫電を帯びる。何が目的なんだ…?
「何度やっても、同じよ! 私にその魔術は通じないわ!」
 術式を編みこみながら魔王に向けて言い放つ。だが、魔王は笑みを崩すことなく術式を展開していく。
「さぁ…もう一度!! ディスチャージ!!」
 無数の羽を弾き、打ち消していく。最低限の魔力で済ませるように対象を絞っていく。当たることのない羽を回避した瞬間、魔王が歓喜の声を上げた。
「ハルカ=リノリウム!! かかったわね!!」
「……ッ!?」
 バチッ…っとスパークする音が背後で聞こえた。振り返ると、ふたつの羽がぶつかりその軌道を変えていた。一直線にムツミの元へと向かっていく。しまった…直線にしか進まないという概念に縛られていたことが、同じ攻撃で同じ軌道だと思い込んでいたことがこの状態を生んだ。ムツミは私を信じてくれていたのに…。
「……時よ!!!!」
 あらかじめ構築していた時間制御の術式を解放して、ムツミの元へと向かう。ここさえ間に合えば…私は…!!
「……ムツミは私が…守る!!」
 ムツミの前に立ちはだかり、両手を広げて飛来する無数の羽からムツミをかばう。
「…あははは!! 素晴らしい友情ごっこね! だけど…それが命取りよ!!」
 魔王の合図で複雑な軌道を描く羽たちが私の体に突き刺さる。刺すような痛みと衝撃で体が揺れる。
「…砕け散りなさい!! 愚か者どもよ!!」
 突き刺さった羽に付与された魔力が膨張していくのがわかる。次の瞬間、連鎖的に起こった爆発が私の体をバラバラに吹き飛ばした。

         >>view:ムツミ

「……ムツミは私が…守る!!」
 あたしの目の前で、あたしよりも小さくて、華奢な背中がはねるように揺れた。まるで孔雀のように無数の羽で彩られた体から鮮血が吹き出て、あたしの頬を濡らした。
「……は、ハルカ…」
 信じられないあたしの前で、ハルカの体が爆発した。びちゃ…っと生暖かいものがあたしの体に付着する…。え…。
「あははははは!!!! 私に逆らうからこうなるのよ!!」 
 呆然とするあたしの前でメルがおかしそうに笑っている。そんなことを理解するのにも時間がかかった。そして、どうしようもない悲しみと、怒りがこみ上げてくる…。
「次は貴方の番よ…出来損ないの魔王様…?」
 そして、ハルカが…死んだことを理解した。
「ハルカ…ハルカ…ハルカ……ッ」
 涙が溢れてくる。そしてそれ以上の感情が心を突き動かす。
「ハルカァァァァァァァァ!!!!!」
「…呼んだ?」
 あたしの慟哭に…ハルカが答えた。   え?
「え…」
 ハルカは…何気ない顔で立っていた。その体にはまだいくつか羽が刺さったままで…。メルの背後に立っていた。
「魔王…? よくもやってくれたね? さすがに痛かったから…あんたにもおすそ分けしようと思ってね…」
「…何を…う…がっ…」
 ハルカが振り返ったメルを見つめる。その瞳が真紅に染まったかと思った瞬間、メルが全身から血を吹き出した。
「…私って、わりと執念深いほうでね…ふふ…」
「…ハルカ…どうして…」
 まだ終わっていないのはわかっていたが、つい聞いてしまう。
「こいつを倒したらタネあかししてあげる…今は…」
「…うん…倒す!!!」
 グレートソードを構えなおして走り出す。ふらついているメルがその前でいくつにも分身する。
「「「…出来損ないごときが私に傷をつけることが出来るとでも思って?」」」
 サラウンドで話しかけられて困惑する。いったいどれが本物なの?
「ムツミ!! 全力でその剣をどれかに投げて!!」
 ハルカが叫ぶ。私は疑うことなく目の前にいたメルに向けて投げつける。当たった瞬間にガラスのように砕け散るメルを見ても、落胆はしない。あたしは信じてる。ハルカを…!!
「「あははは!!! 残念! これでチェックメイトだ!!」」
「それはどうかな…」

         >>view:ハルカ


「「あははは!!! 残念! これでチェックメイトだ!!」」
 勝ち誇った魔王に私はこちらからチェックメイトを告げる。
「それはどうかな…」
 両手に最大威力で展開していた魔力を魔王に向けて放つ。魔力は虚像を破壊し、そのまま魔王の後方へ飛んでいく。
「ふふ…まったく…最後の賭けに失敗するなんて…運がないですわね…」
 術式を展開しながら勝利を確信した笑みを浮かべながら魔王が近づいてくる。私は、最後の一言を告げた。
「…いいや…賭けなんてしてないさ…。だって、100%の成功率は、賭けと言えないでしょ?」
「何を言っ……がっ…はっ…」
 ズドン…という鈍い音ともに、魔王の腹をムツミのグレートソードが突き抜ける。
「……まさか…剣に魔力弾を当てて反射させて……」
「…あんたが見せてくれた方法だよ…。どう?」
 驚愕に目を見開いたまま、魔王が光の粒子になって消えてゆく。やがて、カランという音と共にグレートソードを残して完全に魔王は消失した。
「…ハルカ!! すごい…!! やったね!!」
 ムツミがこちらに走ってくる。それに親指を上げて返しながら、だんだんと意識が薄れていくのを感じていた。
(……ああ…さすがに相手に深手を与えるためとはいえ…障壁なしでアレはキツかったか…)
「ちょっ…ハルカ!? ハルカ!!」
 遠くにムツミの声を聞きながら、私は意識を手放した。

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