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おいしい声(もの)たべたい。

ここは主食が『声』のさすらい人「御影」が、日々の雑記やらその日食べたごはん。その他を自由気ままに語るブログです。日々、腹痛に注意。
HOME » TRPG小説 » CLIMAX/scene11:無限の虹彩-私の恋したウィザード-
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 扉を開けると、そこは無数のマネキンがまるで中央の玉座を守るかのように配置してあった。その玉座にはメル=アドラーが片肘をついて座っている。その顔には嗜虐的な笑み。恰好の遊び道具を与えられた少女のようであり、これから喰らう獲物を見つけた狩猟者のそれでもあった。
「ふふふ…お客様方…ようこそ…玉座の間へ…」
 魔王は優雅な仕草で玉座から立ち上がると、わざとらしく一礼をする。
「…メル=アドラー!! さっきはよくもやってくれたな!」
 ムツミがグレートソードを構える。少し心配になって目で合図を送ると『大丈夫』と小さく言って返した。
「"無限の虹彩"メル=アドラー…あんたに恨みはないけど…魔王の座…渡してもらうよ…!!」
 私は魔王を見据えながら、ローブの下で魔力を幾重にも編みこんでいく。
「おっと…最初から暴力に訴えるのは美しくありませんわ…まずは私の話を聞いていただけませんか?」
「…それを信用しろとでも…?」
「そうだよ! あたしにあんなことしておいて!」
 慇懃な態度で魔王が悲しげな表情を浮かべる。怒りを顕わにするムツミを抑えながら、私は魔力を解くことなく魔王の動向を見守る。
「…その証として、ハルカさまのために、ひとつ用意したものがありますの…」
 魔王が指を鳴らすと、そこに布で覆われた人型が現れた。
「…ハルカ…また、あたしの時みたいな心を乱す仕掛けかもよ…」
 ムツミの指摘は恐らく正しい。この魔王は他人の心を壊し、絶対的優位に立ってからいたぶることを好む。だが、強制力のある魔術ではなく、あくまで対象の精神に訴えかけるようなものなので、タネを知ってしまえば驚くような仕掛けではない。
「…ふ、あんたじゃないんだからそんなのに引っかかったりしないわよ」
「…ははは、それはキツいや」
 軽口を叩きあいながらも、私は用心のために戦闘中にかけてある魔術"ヒートシフト"の強度を上げる。思考にリミットが掛けられていくのが感覚的に理解できる。
「…では、ハルカさま…感動の再会をなさってくださいませ!!!」
 魔王が大仰な動きで布を取り払う。そこには、あの人がいた。
「…あ…ああ…」
 口から思わずうめき声が漏れる。同時にヒートシフトによって抑えていた感情が制御できずに溢れていくのがわかる。
「ハ、ハルカ!? どうしたの?」
「あはははは!!! どうかしら? ハルカ=リノリウム!! 貴方の想い人…二度と届くことのない恋の相手よ!! よかったわね? これから貴方は最愛の人に殺してもらえるのよ!!」
 ムツミが何か言っている。そして、魔王が何かを言っている。だけど、今の私には聞こえなかった。

         >>view:ムツミ

「ハ、ハルカ!? どうしたの?」
 突然うつむいたハルカの異常な様子にあたしは驚いた。目の前に出てきた男の人は一体誰なんだろう…?
「あはははは!!! どうかしら? ハルカ=リノリウム!! 貴方の想い人…二度と届くことのない恋の相手よ!! よかったですわね? これから貴方は最愛の人に殺してもらえますのよ!!」
 え…? 想い人…? 二度と届くことのない恋って…。あたしにはよくわからないけど…目の前の男の人はハルカにとってすごく大切な人なんだろう。それを相手にするのは…例えそれが偽者だとわかっていても辛いんだろう。
「…メル=アドラー!! お前はぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「魔王もどきか…何を怒っている? 私はハルカ=リノリウムのためにわざわざ想い人を用意してやったのよ…?」
 おかしそうに笑うメルに、あたしは全身の血が沸騰していくのがわかる。さっきは、ハルカがあたしを助けてくれた…今度はあたしの番だ。
「あたしはあんたを許さない!! ハルカはあたしが守る!!」
 愛用のグレートソードを強く握り、目の前の敵に集中する。すると、体の奥に小さな火が灯るような感覚が走った…。
(これは……力? …もし、そうなら…あたしは友達を守る力が欲しい!!)
 あたしの中のプラーナが、強く鳴動した。体の中心から、全身へと向けて今までに感じたことのない強い力が溢れていくのがわかる。
「…生意気にも勇者としての力を目覚めさせたみたいですわね…。だけど、出来損ない一人で私の軍勢を相手出来て?」
 メルが両手を広げると、周囲のマネキンたちが一斉に動き出した。そのどれもがさっき相手にしたマネキンとは魔力の強さが違うことを本能が理解する。
「…それでも、あたしが…守るんだ…!!」
 うつむいたままのハルカを背中にかばい、あたしは覚悟を決める。
「…うふふ…麗しい友情ね…。でも、そんなもの何の意味もないと…」
 笑みを浮かべていたメルの体が、次の瞬間、壁に叩きつけられた。
「…え…な、何?」

         >>view:ハルカ

 少しだけ、恥ずかしい青春の話をしよう。私、ハルカ=リノリウムには大切な人がいた。私がロンギヌス時代に試験会場で出会った男の子。ただ同じグループだったから、そんな理由で助けられた私は、彼に恋をした。それは私の一方的な想いで、絶対に叶うことのない想いだったのだ。だけど、私は最後の最後まで大切に想っていたのだ。こちらに来た時に、その想いは捨ててきた。あいつが幸せになったのだから、それでいいと捨ててきたのだ。
「……だけど」
 目の前には、あいつがいた。二度と会えない。もし、会ったとしても敵同士…。それは覚悟していた。もしそうなったら、あいつにこの捨てた想いの分だけ意地悪してやろうって思っていた。でも、目の前にいるあいつは魔王が作った偽者なのだ。
「……リフレクト…プラーナ全解放…」
 私は今、感情に支配されている。ムツミが勝手に落ち込んだ時と同じ…だけど、異質な感情…。
「……ッ!!」
 そう、私は今…キレている。私の大切な想いを踏みにじった、あの魔王に。
「タンブリング…ダウン!」
 プラーナと魔力の爆発を推進力に変え、瞬間的に間合いを詰める。私の接近にも気づかないで笑っている魔王に激情のままに拳を突き出す。自然と、拳は相手の頬を狙っていた。直撃を受けた魔王があいつの姿を模したマネキンと共に壁へと激突するのを見て、私は拳に纏っていた魔力を解放し、瓦礫の下敷きになった魔王を見つめながら背後で呆然としているムツミに向けて言う。
「…ごめんムツミ。もしかしたら…こいつ…潰しちゃうかもしれないけど…作戦通り…お願いね?」
「あ、あ…うん…わ、わかったよ…」
 自分でも聞いたことのない冷たい声が出た。それだけ、今の私は怒っているのだ。そして、捨てたといっても、やはり大切な想いだったのだと実感する。
「さあ、立ちなよ…魔王…。せっかくあんたを倒す理由が出来たんだ…話し合いで済ますのはもったいないでしょ?」
「あは…ははは…まさか…私の策が裏目に出たとはね…誤算だわ…」
 瓦礫を押しのけて、魔王が姿を現す。その顔は一撃を喰らっても傷ひとつなかった。
「…だけど…落とし子風情が魔王である私に勝てるなんて思わないことね!!」
 魔王が両手を広げると、周囲に無数の羽が浮かび上がる。それらはどれひとつとしても同じ色を持たない…まさに無限の虹彩と呼ぶに相応しい光景だった。
「…終焉より来たりて黎明をもたらす破滅にして再誕の閃光…我が前に顕現し、新たなる始まりを告げよ…」
「…高レベルの二重詠唱!? …させない!」
 魔王の両手に白と黒、二色の魔力が収束する。その術式の完成を待つことなく、私は次の行動に出る。
「純然たる魔力よ…我が拳に宿りて殲滅せよ!!」
 後方に跳躍しながら、右手で術式を展開する。魔力拡散の魔法陣の完成に合わせて、私は左手に宿した魔力をその魔法陣に打ち込む。拡散の術式を介して圧縮された殲滅の魔力がマネキンと、魔王を撃ちぬいてゆく。
「低級術式ごときで私に傷が付けられるとでも思って? 障壁よ…集え!」
 魔王の周囲に浮遊していた羽が私の魔力を相殺させる。それを横目で見ながら私はさらに連続して拳を介して魔力を放っていく。
「無駄よ!! 私の魔力障壁の前では落とし子ごときの力など無力!」
 その全てを羽によって止められながらも、左右に跳躍を繰り返しながら私は拳を放ち続ける。
「ちょこまかと…死になさい!! ラグナロック…ライト!!」
「蝕め! ミアズマの死の輝きよ!!」
 完成した術式を解放しようとする魔王の懐へと接近し、瘴気を解放する。急激に濃度を増した瘴気が魔王の術式を蝕んでいく。
「くっ…だが、その程度の瘴気では私の力を抑えることは出来ないわ!」
 目を焼くような閃光と、地の底から響くような怨嗟の声を帯びた膨大な魔力が私に向けて放たれる。それを前に、そっと目を瞑り…手を前に差し出す。
「…私は否定する…故に…夢は夢に…」
「あはははは!! 終焉の光に飲み込まれて消えなさい!!」
 魔王の声が遠くに聞こえる。ただ、私は『私が望まない夢を否定する』…。目を閉じた暗闇には何もない。指先に触れた魔力が否定され、夢へと帰っていく。
「……ふぅ」
 目を開けると、そこには残骸と化したマネキンと、驚愕の表情を浮かべた魔王だけだった。
「ば、バカな…私の術式が消えたなんて…!?」
「…魔王メル=アドラー…。あんたの現実全部…私が夢へと返してあげる…」
 魔王を真似るように、私は口の端を吊り上げて笑った。
「…この…落とし子風情が…ッ!!」
 その言葉に予想通り魔王が激昂する。少しだけ冷静さを取り戻した頭で、次の動きを考える。いくら私が攻撃を打ち込んだとしても無数の羽に阻まれる。ここで激情に任せて攻撃を続けても意味はない。私がするべきことは、ムツミのために少しでも時間を稼ぐことだ。
「…その落とし子風情に傷ひとつ付けられないのは誰かな?」
「…闇をもって闇を包め、全てを喰らう原生の暗黒…。何者にも染まらぬ永遠の深淵…」
 憎悪の瞳で私を見ながら魔王が術式の構築を始める。私は法則へのアクセスをするためにゆっくりと手を前に差しだす。
「どんな術式だか知らないけど…私の魔術の前では無力よ!!」
 勝ち誇ったように叫ぶ魔王の両手に強大な魔力が集約されていく。
「受けなさい!! 原初の暗黒! プリミティヴ…カオス!!」
 高速で打ち出された巨大な魔力球が私に迫る。さっきと同じように法則に介入して夢へと返せばいい…。だが、私の中の何かが警鐘を鳴らしていた。
「……ッ!!」
 私は瞬間的にアクセスを中止し、練り上げていた魔力を一時的に防御へと回す。魔力の直撃を避けるためにバックステップをしながら三重に防御障壁を張ってゆく。次の瞬間、着弾した暗黒の魔力が広がり、私の張った障壁ごと周囲の空間を削り取ってゆく。
「あははははは!! 私を止めるのではなかったの?」
 目の前に広がる暗黒の先で魔王が笑っている。私は体内の気を解放し、魔力の中心点に向けて拳を放つ。金色に染まる拳が暗闇に夜明けを生み出す。
「…それはこっちの台詞よ…! この程度の魔力で私を倒した気になってるの?」
 術式の中心を破壊し、闇を払う。余裕ぶってはいるが、とっさの判断でアクセスを中止しなければ、私はこの膨大な魔力で魔力回路を破壊されていた。さすがは魔王と呼ばれるだけはあるようだ。
「…ま、またしても…!! だが…ならばこれならばどうだ?」
 立て直す暇も与えないような速度でさらに術式の構築を始める魔王。周囲に浮かんでいた羽が紫の雷を纏い始め、その輝きを増してゆく。
「…これは…物体加速…?」
 もっともシンプルにして、それゆえに構築の速度が最短と言える『物体の加速』という単純な魔術式。だが、それも魔力の高さを利用すれば十分な威力を出せる。どうやら私の術式の展開を上回るつもりのようだ。
「……だけど…それなら!!」
 私も負けじと術式の構築に入る。私が得意とする『相殺』の術式だ。まだ残していたいくつかの構築済みの術式を変化させて速度を上げる。
「さぁ…消えなさい!! ディスチャージ!!」
 私はチラリとムツミの位置を確認し、ムツミと直線距離で結ばれた羽に魔力をぶつけていく。物体加速は基本的な術式ゆえに複雑な指令を出来ない。私は羽を避けながらそれを相殺してゆく。
「…闇よ…飲み込め!! グリードシャドウ!!」
 魔力の加護を失った羽が次々と落ちていく。ズキリと痛む頭を振りながら、ムツミを伺う…問題ない。
「…次はどうするの? 魔王サマ?」
 最後の一つを相殺し、地面に落ちた羽を踏みつけて私は挑発するように魔王を見る。それを見た魔王は、おかしそうに声を上げて笑った。 …まさか?
「何がおかしいの? とうとうプライドが壊れてしまったの?」
 内心の動揺を隠しながら、強気な態度を崩さない。
「…あは…どこまでが演技かわからないけど…貴方…いい役者になれるわ…」
 魔王が嗜虐的な笑みを浮かべる。私は、無言で術式を幾つも編み上げていく。
「まさか…後ろにいる魔王もどきを守るために私の攻撃を引き付けていたとはね…どんな意図があるかはわからないけど…私としたことがさっきからアクションがないことに気づかないだなんて…」
 魔王の周囲に紫電を纏った羽が浮かびあがる。私はまた相殺の術式を編み上げていく。
「…バカのひとつ覚えで…私を抜けられるとでも思ってるの?」
「…ふふ…さて…どうかしらね?」

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