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おいしい声(もの)たべたい。

ここは主食が『声』のさすらい人「御影」が、日々の雑記やらその日食べたごはん。その他を自由気ままに語るブログです。日々、腹痛に注意。
HOME » TRPG小説 » scene5:とある休日の昼下がり-百合ちっくえぼりゅーしょん-
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とある休日の昼下がり、私は友達のリオンちゃん…正体が秘密侯爵と呼ばれる裏界でも有名な魔王だということは最近知った…と一緒に過ごしていた。
「ハルカ…そこにある緑色の新幹線を取ってください」
 椅子に座ったまま神妙な面持ちで電車の模型…Nゲージだっけ…の掃除をしているリオンちゃんの手伝いをする。最初は難しい番号で言われて戸惑ったが、リオンちゃんが色で説明してくれるようになってからは少しだけわかるようになった。進歩進歩。
「これだね…はい」
 リオンちゃんはとても口数が少なく、また感情が大きく表に出ることがあまりない。私自身もあまり喋るのが得意ってわけじゃないから、二人っきりでいるとこんな風に少ない言葉のやりとりだけになってしまうこともちよくある。だけど、それに対して不快だとか、寂しいだとか思うことはない。私は、このゆったりとした空気が好きなのだ。普段、アンゼロットから無理難題押し付けられている私にとって、この空間は何者にも代え難い癒しのひとときなのだ。
「ありがとう、ハルカ…さて、これはこの場所に…ッッ」
「リオンちゃん!?」
 私から電車を受け取ったリオンちゃんの眉が顰められる。そして、その白い指から血がつっ…と一筋流れ落ちた。その血を見て、私の頭が真っ白になる。今思えば、指先を少し切っただけ、そこまで慌てることなんてなかったのだけれど、その時の私は相当動転していたようで、治癒魔法も、救急セットの存在も忘れて、ただ「血を止めないと」という一心でリオンちゃんの指を口に含んでいた。
「…んぅ」
「…あっ…」
 舌先に痺れるような鉄の味と少し冷たいリオンちゃんの指先の感触が触れた。私は傷口から流れる血を塞ぐように舌先を動かしていく。喉奥にたまった唾液を飲み込むと、少しだけしょっぱい血の味とともに、体の奥底がかぁっと熱くなっていくのがわかった。まるで熱に浮かされたような生存本能が訴える恐怖と、抗うことの出来ない高揚感が体を支配する。他人の血液、しかも女の子の血液を飲んで興奮しているだなんて、もしかして…私はとんでもない変態なんじゃないか…と思ってしまう。だが、止められない衝動が私の思考を塗りつぶしていく。
「…ハルカ」
「…ごめんね、リオンちゃん…私、なんだかおかしいの…体が…心が…熱い…」
 熱が頭を支配する。視界がぼやけて、意識が体を離れていく。体が言うことを聞かない。誰かに体を支配されている感覚。私の中に異物が入り込んだみたいなもやもやした不安定な感触だけが私自身を繋ぎとめている。
「…ハルカは私の血を飲んで落とし子として覚醒する…今日は読んでないけど…たぶん、書物に書いてある通り…」
 リオンちゃんの声をどこか遠くで聞きながら、私の意識は闇へと沈んでいった。

「……と、いうわけで私はリオンちゃんの落とし子になったってわけ。まぁ、正式な契約ってわけじゃないからそこまで強力な力を行使できるわけじゃないんだけどね」
 あの時は、落とし子になってしまったことより自分の性癖に対する不信感の方が大きくて、実感が湧かなかった。その後、神との戦いの時に力を発現して、やっと自分が人間ではなく、侵魔のそれに近い体になったということを確信した。
「…へ、へぇ…大変だったんだね…」
 何て言ったらいいのかわからないといった表情でムツミが苦笑いを浮かべる。うん、私もそう思う。
「あ…ほら、見えてきた。あれが魔王の居城だよ」
 ちょうどいいぐらいに魔王メル=アドラーの居城を見渡せる丘へと到着する。これ以上あの日を振り返るのも微妙だし、それにこのままムツミのことを追求する形になってしまうのは私としてもよろしくない。少し強引だが話題をそっちに移行させてもらうことにする。
「…あれ…が?」
 話題を変える前と同じぐらい何て言っていいかわからないといった声でムツミが引きつった笑みを浮かべる。その気持ちはよくわかる。顔には出さなかったが、私も同じ気持ちだ。魔王メル=アドラーの居城は…何というか『原色の布を城型のウェディングケーキに過剰包装のように縦横無尽に巻きつけ、さらにその上からスパンコールやら宝石やらをバケツ単位でぶちまけた』と表現してもまだ足りないくらい目に悪そうな、見ているだけで気分の悪くなってくる…趣味の悪さなら裏界1と言ってもいいぐらいの極彩色の城だった。
「…私も、今ものすごく帰りたくなった。でも…魔王はあそこにいるの」
「…よ、よし! 頑張ろう、ハルカ! 気合だよ!」
 ムツミがわざとらしいぐらいに気合を入れなおす。ここまで他人の気分をかき乱す外観は、ある意味極悪な兵器なのではないか。と思う。こうして、私とムツミはその極彩色の城へと乗り込むのだった。

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