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おいしい声(もの)たべたい。

ここは主食が『声』のさすらい人「御影」が、日々の雑記やらその日食べたごはん。その他を自由気ままに語るブログです。日々、腹痛に注意。
HOME » TRPG小説 » ENDING/scene14:魔王と魔王-デュアルツンデレシステム-
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「…あぁ……疲れた」
 一人テーブルから離れて私は深くため息を吐く。盛り上がっているみんなを見ながら、持ってきていたグラスの中身を飲み干す。果汁の酸味が疲れた喉に染み渡っていく。
「…アンタね…主役がこんな所で黄昏ててどうすんのよ…」
「ベル…ちょっと疲れちゃってね…」
 ベルが赤ワインの入ったグラスを持ってやってくる。うん、何だかすごく魔王っぽい。こういうところは見習わないといけないのかな。魔王として。
「疲れた…って…アンタ…そんなことでどうすんのよ。魔王ってのはもっと大変なのよ? わかってる?」
「…ごめん。まだよくわからないんだ…魔王になって、私はどう変わるべきなのか」
 呆れたように言うのに対して、私は素直に答える。何も変わったようには思えないんだよね…。
「…アンタ…何か勘違いしてない? 変わるべき…なんてことはないの」
「…どういうこと? 変わらないと私、高笑いとか出来ないよ?」
 出来ない子供を諭すようにベルが言った言葉。その意味を私は図りかねていた。
「アンタ…もしかして、魔王になったからには世界征服をしなければいけないとか、悪の限りを尽くさなければならないとか…そんなこと考えてない?」
「え…違うの?」
 違うの? 高笑いしたり、世界を勇者と半分こしたり、闇の衣に包まれていたり、教会を凍らせたり…そんな存在にならなくちゃいけないんじゃ…。
「……(まるで、お通夜のような沈痛な面持ち)」
「…な、なんでそんな顔するの!?」
 非常に味のある顔でじとーっと見つめてくるベル。な、何その『真面目な話かと思ったじゃない、ちょっとは空気読みなさいよバカ』みたいな目は…!?
「…ホント…アンタは……バカねぇ…」
「……ぐぅ…」
 反論する自信はない。けど、ぐぅの音は出たよ!
「…まぁ、変わるべきことなんてないけど…変わったことならあるはずよ。ほら、見なさい」
 そう言って、顎で指したのは笑いあう私の新しい仲間たち。そっか…。
「……うん。何か実感した。ありがと、ベル」
「…べ、別にうじうじ悩んでるアンタがうざかったから言っただけよ。お礼なんて言われる筋合いなんてないわ!」
 頬を赤くしながら顔を背けるベルに私は内心苦笑しながら、心がどこかすっきりしたのを感じた。
「…はいはいツンデレツンデレ…ですね…ベル」
「…リオン!?」
「リオンちゃん!?」
 突然ベルの背後に現れたリオンちゃんに二人して驚く。
「…ちょっといい話をするために来たわけではないのでしょう? ベル」
「…わ、わかってるわよ…ちゃんと言うわよ」
 どこか責めるような視線のリオンちゃんと何か言うのをためらっているようなベル。ま、まさか…また何か問題が? しかも私が一人のところを狙って来ただなんて…。『魔王になってわかったわ…アンタがいては私の覇道の邪魔になる…ここで死になさい』ってことだろうか…。
「…ベル…わかったよ…」
「え!? わ、わかったって何!?」
 それでもためらったり、慌てたりしてくれたのは…少しでも仲間だって思ってくれたからだよね?
「ベル…私と勝負しよう…」
「え? 何?」
「…どういうことです? ハルカ」
「…この裏界に魔王はひとり…そういうことでしょ? ベル。あんたの覇道…裏界統一魔王…つまり東西南北中央魔王、超☆魔王になるという目的に、私は邪魔なんだよね!!」
「……な!!?」
 驚いた顔をするベルに、私は確信した。私だって、どこかで嘘だったらよかったって思ってたよ。だけど…仕方ないんだよね…私たち…魔王なんだもの。
「…あ、アンタ…何でそんな決意したいい顔してんの…? あと、そのダサい脳内設定は何なのよ…」
「ベル…貴方にはお似合いの素晴らしい目的だと思いますよ? ふふ…」
「違うわよ!! アタシはただハルカが頑張ったから、プレゼントを渡そうとしてたのよ!!」
「…え? ベル?」
 ベルが…私にプレゼント…? それなのに…私は…あんな勘違いをして…。
「…あ、ありがとう…あと…勘違いして…ごめんね。嬉しい…」
 あ、何だろう…嬉しくて涙が出てきそうだ。あう…。
「ちょっ…何泣きそうになってるのよ!? あ、あのね。そもそもプレゼントっていうか何というか…いや、それはね偉大なる大魔王としては新参者の魔王に対して施しを与えるというか、強者の余裕というか…つまりはそういうことだから、え、ええと…別にアンタのためじゃないんだからね!!」
「…とんだツンデレですね。ベル」
 リオンちゃんの一言にがっくりとうなだれるベル。私はそんな姿を見て声を出して笑った。


「…ま、まぁ…色々不本意な所もあったけどいいわ。とりあえず、コレ…アンタにあげるわ」
 そう言って、ベルは綺麗なティアラのようなものを取り出した。
「…これは? ティアラ?」
「…魔王の冠。モーリー=グレイが保管するワールドアイテムの中でも最高位に位置する品物です…。ベル…どこでこんなものを?」
 リオンちゃんが訝しげな表情でベルを問い詰めると、ベルは魔王らしい邪悪な笑みを浮かべた。
「ふふん。ちょっといいモノが手に入ったから、それをモーリーに渡したのよ。そしたら、条件付で交換してくれたわ」
「…条件…」
「…条件…ですか」
 得意気にいうベルの『条件』という言葉に私とリオンちゃんは顔を付き合わせる。魔王の出す条件にはロクなものがない。それは魔王が魔王たる所以だが…。
「だ、大丈夫よ。ただ、ちょっと部下が増えるだけだから…ほら、付けてみなさいよ」
「ちょ…ちょっと…ベル…あっ…」
 にじり寄ったベルに勝手に頭にティアラを乗っけられる。うわ、何だろ…すごく体の奥底から力が沸いてくるような感覚…。だけど、それ以上に光を放っている中央の宝石が気になるんですけど!!
「う、うわ…ちょっとベル!? 何か光ってるよ!?」
「そうねー、暗い夜道は役に立つかもしれないわねー」
 目、逸らした!? しかもすごい棒読み!? ああ、何か光りだしたから離れていた他のみんなも何事かと寄ってきちゃったよぉ…。
「ど、どうしたの? ハルカ!?」
「「魔王様!? そんなに光り輝いてどうしたんです!?」」
「あぁ…お姉さま…そんなに煌いて…ステキ…」
「ふふ…人気者ですね。ハルカ」
「よかったわねーハルカー」
 あああ…城内視聴率100%だよぉ…。あと、ベル!! 棒読み!!
「ベル!! 一体どんな条件を飲んだの!!」
「うわ…まぶしっ…ちょっと、ハルカ…!! わ、わかったから近づかないで!」
 私の必死の問いかけ…直射閃光による物理的説得にベルが折れる。
「…条件ってのはね…アンタがとある魔王の元から逃走したエミュレイターを手なずけること。かなり凶暴なヤツらしくてね、その魔王の冠に封印されてるみたいなの」
「……」
 え…それってつまり封印の魔物を仲魔に加えろってことだよね!? 魔王が手を焼くほどの!! って、ああ…何かどんどん光が強くなってくし、魔力が高まっているし!?
「…来ますね。みんな、下がったほうがいいです」
 リオンちゃんの一言でみんなが遠く離れていく。ああ、ちょっと…みんな…。
「来るわよ!!」
 ベルの声とともに、ティアラの額から強大な魔力が物量を持って目の前に顕現する。山羊の頭に強靭な肉体、まさに絵に描いたような悪魔の姿がそこにあった。
「…アークデーモン…この魔力の波長…パール・クールの加護を受けていますね…」
「…魔王付きのアークデーモン!? 何てモノを封印してるのよ!!」
 叫びながら、私は戦闘態勢を取り、ローブの下で術式を幾重にも展開しながらアークデーモンを見据える。
「…お主…魔王…か?」
「ええ…成り立てだけどね…。あんた…パールの所から逃げ出したって話じゃない」
 緊迫感を持続させたまま、私はアークデーモンに問いかける。私の言葉に体がびくりと震える。
「……い、いかにも…私の力は魔王ごときが使うには過ぎたものよ…」
「……?」
 あれ? 何かものすごく動揺してない? アークデーモンの額に冷や汗が浮かんでいるように見えるんだけど…。
「……もしかして…辛くて逃げた?」
「……!」
「…んで、逃げようとしたところをパールに封印された?」
「……!!」
「…『パールちゃんの言うこと聞かないヤツなんていらなーい。ぽーい』とか?」
「…!!!! お、お主…まさか私の心を…!?」
 何だかちょっと、かわいそうになってきた。あのわがまま魔王のことだから無理難題を出し続けたんだろうな…。
『早く壁サークルの同人誌買って来なさい~。あ、もちろん泊り込みでね~』
『明日までにレアドロップ品フルコンプしといて~。そうそう、光らせておくのを忘れないでね~』
『竜の玉、蓬莱の玉の枝、火鼠の衣、仏の捨て鉢、燕の子安貝が所望じゃ…』
 それは逃げたくもなるよ。ああ、ダメ、涙出てきた。あううう…。
「……あぐ…あーぐでーもん…一緒に…一緒に楽じくやって行こう…。もう辛いことなんでないんだよぉぉぉ…」
 アークデーモンの手を掴んで、一人じゃないことを伝える。大丈夫、もう苦しまなくていいんだよぉぉ…。私が、みんながいるからさぁぁぁ!!!


         >>view:ムツミ

「…ね、ねぇ…ハルカはどうして号泣しながらアークデーモンの手を握り締めているの?」
 一触即発の雰囲気だったはずなのに、突然ハルカがだまったかと思ったらやはり突然泣き出した。何があったの?
「ああ、また何かロクでもないこと考えてトリップしたわね…」
「…ええ、さすがの私もあの妄想力には驚かされます」
 何故か納得した風のベール=ゼファーとリオン=グンタ。どういうこと?
「…ムツミ…アンタはまだ見てなかっただろうけど、ハルカは元々あんな風に妙に思い込みが激しい性格よ」
「ヒートシフト…ベルも使ったらどうです?」
「ちょっとどういうこと…リオン?」
 魔王二人の口論を尻目にあたしは号泣しているハルカを見る。ヒートシフトってすごいな…。
「魔王様は何と慈悲深い…あのような凶悪な侵魔に対しても涙を流せるなんて…」
「ああ、やっぱり魔王様は優しい王様になれるお方だ!」
「お姉さま…その涙も…す、ステキです…」
 ハルカの部下三人はキラキラした(何か一人だけギラギラしてるけど…)瞳で見てる。本当なら破壊を求める侵魔ですらこんなことになってしまうなんて…ハルカのカリスマ性の高さを改めて認識する。
「…あ、何か進展があったみたい」
 号泣していたハルカを宥めるように肩を叩くアークデーモン。そして、二言三言言葉を交わしたと思ったら、今度はアークデーモンが目のあたりを腕でごしごしと擦っている。え、高レベルの侵魔が泣いた?
「……相変わらずあの勢いに任せた交渉…というか説得…というか。泣き落とし? すごい威力よね…」
「…わかっていてこの条件を飲んだのでしょう? ベル」
「……ここまですんなりいくとは思ってなかったけどね」
 高位魔王にすら認められるレベルなんだ…ハルカ…。やっぱすごいな…。あ、アークデーモンとハルカがこっちに来る。
「これからハルカ様の配下になった、アークデーモンのギースだ。よろしく頼…う…うぅぅ…すまん、このような優しさに触れたのは久しぶりだったからな…」
「うぐ…ぐぅ…みんな…仲良く楽しくやっていこうね…あうぅぅ」
「「「魔王様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
 目幅の涙を流しながら狭界で見た青春ドラマみたいに円陣を組んで抱き合うハルカたち。いいなぁ…何か「仲間」って感じで…。

         >>view:ハルカ

「な、何故私のために涙を流す…? 魔王よ、お主たちにとっては我ら侵魔など捨て駒のようなものではないのか?」
 アークデーモンがさも当然かのように言う。その言葉に、また涙が溢れた。
「…なんでそんな悲しいこと言うの!!? 私は侵魔だからとか魔王だからとかそんなことでみんなを…みんなを捨てたりなんてで、出来ない…あううううううう~!!」
「ま、待て! そんなに泣くことはないだろう? わ、私が悪かった…私が言い過ぎた! だから泣き止んでくれ…!」
 アークデーモンが私の肩を優しく叩く。ほら、こんなに優しい侵魔を見捨てることなんて出来ないよぉぉぉ…。
「うぅ…じゃあ…私の仲間になってくれる? みんなで仲良く暮らしてくれる?」
 アークデーモンの目を見つめてお願いする。すると、アークデーモンの瞳に涙が見えた。そして、それをごまかすようにごしごしと腕で拭った。
「…パール様の元ではまるでモノのように扱われ…無理難題を言いつけられても、耐えてきた日々…。封印された時に終わるかと思ったのだが…まさかこのような機会があろうとは…」
 どこか遠くを見つめてアークデーモンが呟く。やっぱり辛い日々だったんだね…可哀想に…。
「…わかった…いや、わかりましたハルカ様…このギース、我が全命を持って貴方を守り抜くと誓いましょう…」
「うん…ありがとう…ギース」
 まるで王に忠誠を誓う騎士のように頭を下げるアークデーモン…いや、ギース。私は、分かり合えたことの喜びをかみしめる。
「うぐ…じゃあみんなの所に行こう。これからみんなで暮らすんだから、挨拶は大事だよ…」
「ええ…行きましょう」
 私はギースの手を引きながら、心配そうに見つめているみんなの元へと向かった。

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